岩手考古学第13号2001年5月31日発行柳之御所遗.PDF

岩手考古学 第13号 2001年5月31日発行 平泉遺跡群のロクロかわらけについて Rokuro Kawarake from HiraizumiSites 羽柴 直人 HASHIBANaoto 柳之御所遺跡52SE10出土のかわらけは12世紀初頭のものである。そしてその特徴的な器種組成から食器の組 み合わせ、用途が推測できる。この52SE10かわらけの存在から、柳之御所遺跡堀内部地区の使用開始は12世紀 初頭にさかのぼることが明らかになった。また平泉のロクロかわらけは1期～6期の6段階に分類できる。手づ くねかわらけの導入時期はその4期（12世紀中ごろ）である。 Ⅰ はじめに Ⅰ－1 本稿の目的 （１） 柳之御所遺跡52次調査 （平成12年度調査）で注目すべき遺物が出土した。それは52SE10の 埋土5層から一括で出土したロクロかわらけである。これらはその形態から12世紀第１四半期に さかのぼると考えられる一群である。これによって柳之御所遺跡堀内部地区の開始年代が、こ れまで言われていた12世紀第3四半期からいっきに12世紀第1四半期にさかのぼる可能性が出て きた。これは柳之御所遺跡のこれまでの評価を一変させる事態といえる。 本稿では52SE10のかわらけについて考察し、柳之御所遺跡の開始年代を明らかにしたいと 思う。また合わせて、12世紀平泉のロクロかわらけの変遷を示し、それに供伴する手づくねか わらけについてもふれ、平泉の手づくねかわらけの導入時期についても考察する。そして今回 （２） の考察をもとに、佐藤嘉広氏の論考「柳之御所遺跡の暦年代」 について検討をおこなう。 Ⅰ－2 これまでの柳之御所速跡の年代観 （３） 柳之御所遺跡21・23・28・31・36・41次調査 の報告書をまとめた松本建速氏は、報告書に おいて、柳之御所遺跡堀内部地区の年代を12世紀中葉から1189年と推測している。この柳之御 所遺跡の年代＝12世紀後半という位置付けは大方に認められ、それを前提として多くの柳之御 所遺跡についての論が展開されている。 今回、52SE10出土のかわらけをもとに、これまでの年代観を覆そうとするわけだが、以前 の松本氏らの調査でも52SE10のかわらけに似たタイプ……身が深い碗形のロクロかわらけは 一括性を持って種々の遺構から出土しているのである。筆者はこれらの大部分は12世紀前半の 41 （４） かわらけと判断したいのであるが、松本氏の判断 は異なっている。松本氏の判断は以下の通 りである。 器高の低い皿形のロクロかわらけは手づくねかわらけの模倣である。 器高の高い椀、坏型のロクロかわらけ（柱状高台も含め）は特定の儀礼に用いたものである。 その両者は12世紀後半に属する。 つまり皿型と椀形のロクロかわらけは時期差が有る故に形態に差があるのではなく、使用す る用途が異なるために形態差があると解釈しているのである。 （５） しかし、今回の52SE10や後述する中尊寺金剛院下層 、柳之御所52SE7、加羅御所跡５ （６） 次 調査井戸では、碗形のロクロかわらけのみの構成で、12世紀後半の遺物は一切無く、かわ らけの以外の遺物で時期を想定できるものはいずれも、12世紀前半のものだけが伴っているの である。量的に格段に多い12世紀後半の遺物が一切混じらず、量の微少な12世紀前半の遺物し か混入していないのであれば、考古学の理論からいって、それは12世紀前半の遺構と判断する のが妥当である。ロクロかわらけの形態差は用途の差なのではなく、時期の差なのである。 II 52SE10出土かわらけについて II－1 52SE10かわらけの特徴 52SE10は深さ約230cmの井戸状遺構で、その埋土上部の5層