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巻 頭 言 医療に携わっていて思うこと ―“メタボリックシンドローム”と薬物治療― 上げました。また、メタボリックシンドロー 財団法人冲中成人病研究所 ムを謳うことによって、肥満の怖さと肥満治 所 長 療の必要性が広く一般に認識されるようにな 村 勢 敏 郎 りました。 （Murase Toshio） とは言え、“メタボリックシンドローム”に （JAPIC理事） ついては、その定義や概念を巡っての課題が 全て解決されたというわけではありません。 ここでは、専門的なことについて微細に議論 するつもりはありません。興味深いことには、 医学・医療の分野に携わってかれこれ40 年 わが国ではメタボリックシンドローム一辺倒 になりますが、昨年から縁あってJAPIC とお でこれに異を唱えることを憚る、といった雰 つき合いをさせて頂くことになりました。こ 囲気があるのに対して、諸外国ではこの症候 れまで、医薬品業界とはそれほど深い接触は 群を巡ってもまだ厳しい議論が交わされてい ありませんでしたので、このたび巻頭言の執 ると言う事実があります。外国では、この症 筆を仰せつかり、少々とまどいましたが、折 候群の実在について、実体に乏しいと言うこ (1) 角の機会ですので、最近話題のメタボリック とで、“裸の王様である” とか、これは“科 (2) シンドロームについて考えることを述べさせ 学なのか、科学でないのか” 等々、反論が て頂くことに致します。 堂々と紙面で戦わされていますが、わが国で “メタボリックシンドローム”という言葉 はこれとは対照的に、批判らしい論説はほと は、6～7 年前頃から使われ始めたのですが、 んど表面にあらわれてきません。 昨年は新語・流行語大賞にも選ばれてしまい、 このように、ある事柄に対する反応の仕方 いまや健康志向の日本社会にすっかり定着し の違いは、その国の教育方法の違いに原因が た感があります。今更改めて解説する必要は あるのかも知れません。例えば、欧米では幼 なかろうかとは思いますが、この症候群は“腹 児の頃から１つのテーマについて賛否にわか 部肥満（内臓脂肪の蓄積）を基盤とし、糖尿 れて議論する“debate”方式と呼ばれる教育 病、脂質代謝異常、高血圧などといった動脈 法が盛んであるのに対して、日本人の学習は 硬化のハイリスク疾患を重複して抱えている “learn”方式が主流であって議論することに 状態”を指して使われています。 不慣れである、そんな背景もあろうかと思い メタボリックシンドロームの根底をなす内 ます。ある事柄に関して常に賛否両論の意見 臓脂肪に関する一連の研究は、比較的遅れて があるということを知っておくことは、物を いた肥満学を一気に科学のレベルにまで引き 見て考えるうえでとても大切なことであろう