低炭素社会と政策手段-中央大学.PDFVIP

第 1 章 低炭素社会 と政策手段 ���������� ���� ��� ���������� 2008年の洞爺湖サミットにおいて、G8は 2050年までに温室効果ガスの排出を現在より 少なくとも 50％削減することを目標とする宣言を発表した1。この目標のもとに、さまざ まな政策手段を用いて、低炭素社会の実現が目指される必要がある。どのような方策が採 用されても、温室効果ガスの削減を促進する技術が実用化され、その技術が市場における 競争において革新される仕組みが経済社会に組み込まれなければならない。市場機構を活 用する仕組みは、課税と排出許可量の市場に関する分析方法を適用することによって解明 される。田中(1998)と(2000)の議論を田中(2008)は online上のテキストとして公開する。 本章の議論は、田中(2008)の説明を、低炭素社会を実現するための新たな政策の分析に応 用する。 環境の問題として代表的であった自然環境の破壊、ごみ問題など資源再利用などと異な り地球環境問題は、地球規模での取組が求められている。温暖化問題では、ごみの再利用 や自然破壊の防止などの効果あるいは結果が実感されるのに対して、日常の人間の社会お よび経済の活動がどのようにして温暖化に結び付くのか明示的に理解することは困難であ る。自分の行動の影響を自らが確認することが容易でなければ、なんらかの形で個人や企 業が地球環境に貢献するような指標を開発する必要がある。個人や企業の行動に関する指 標は、ときとして、規制の基準であり、罰金であり、倫理的な規範であり、税金である。 環境に関するさまざまな行動指標が存在する。地球環境問題には地域や個人などで異なる 水準の貢献が必要であり、それを円滑に進めるためには新たな政策手段を導入しなければ ならない。各国に関する削減目標の設定や市場の機能を活用する政策手段では先進国と途 上国の両グループの間で利害が対立するものが存在する。どのような政策手段をどのよう な形で導入するかを解明する調査・研究が必要である。第 2章から、具体的な政策に関す る市民の対応が分析されるが、本章において、これからの導入されることが予想される有 力な政策手段に関して体系的理論の基礎が与えられる。 1 北海道洞爺湖サミット成果文書 http://www.mofa.go.jp 1 － 3 － 低炭素社会の実現するために考案される技術の体系が存在するが、それらの技術は実用 化の段階において、市場の評価を受けなければならない。市場の機能を用いる代表例とし て導入が進んでいる排出権市場においても、この仕組みが期待どおりの機能を発揮するか どうかは必ずしも明確ではない。その理由は、排出権市場の構想は市場機構の機能を十分 に活用することを前提にしているが、市場の価格機構に基づく資源配分では効率性が達成 されることは期待できても、公正や公平性という観点では、論者によってその意見あるい は価値観がかなり異なることもあって、社会の全員から支持されるような帰結はもたらさ れないことである。いいかえると、市場機構を用いた温室効果ガスの削減策に対しては、 公正あるいは公平性の観点から異論が提示される可能性が高い。市場の参加者の効率性と 公平性に関する判断が重要である。 また、温室効果ガスの削減が国際社会で進む過程では、いろいろの気候変動問題が生じ る一方で、その対策の柱として削減技術の進歩がある程度見込まれる。気候変動問題の解 決の鍵となる新技術の体系はいずれも最適な削減量の決定に重大な影響を及ぼすにもかか わらず、現時点では明確には予測できない。新技術の革新だけに限定しても、排出権市場 では，不確実性が支配しており、市場機構を活用する温暖化問題への対応は困難である。 市場機構の機能には、実際の排出権市場がどれだけ公正に運営されるのか、あるいは、市 場の機能を強化するような法制度の整備、強制力のある罰則、厳正な監視体制などの市場 環境が重大な影響を与える。 本章において、市場機構の機能から、新エネルギー政策の性質が解明される。まず、規 制と排出許可量の関係を明確にすることが、個別の政策に関する評価を容易にする。図 1 は削減の直接規制と排出許可量と環境税を同時に説明する