承諾誘導技法の事例分析と情報操作に対する情報教育 .pdfVIP

鳴門教育大学情報教育ジャーナル　 ３，１−７，２００６ 研究論文 承諾誘導技法の事例分析と情報操作に対する情報教育コンテンツの提案 ＊ ＊＊ 三宮真智子 ，久坂哲也 　 　本研究では，情報操作法の一種である承諾誘導技法に焦点をあて，承諾誘導技法の使用実態につい て事例を収集・分析し，その結果をふまえて，情報操作への理解を深める情報教育コンテンツの提案 を行った。承諾誘導技法とは，情報呈示に操作を加えることによって受け手の情報処理にバイアスを かけ，合理的な判断を困難にして承諾を誘導するものであり，場合によっては金銭的・精神的な被害 をもたらすこともある。事例分析より，以下の諸点が明らかになった：⑴承諾誘導技法は経験則とし て広く用いられている，⑵承諾誘導技法は高額商品の販売にも利用されている，⑶承諾誘導の対象は， 青少年にまで及んでいる。こうした結果から，情報操作に対する理解を深めることが急務と判断し， 中高生以上を対象とした情報教育コンテンツの提案を行った。 〔キーワード ：承諾誘導，情報操作，合理的判断，情報教育，メタ認知〕 を理解することが重要である。 １．はじめに 　本研究では，合理的な情報判断を困難にする承諾誘導 　承諾誘導技法とは，情報呈示の方法に操作を加えるこ 技法に焦点を当て，まずその使用実態を探るとともに， とにより，受け手に脅しや圧力をかけることなく，承諾 この技法への関心と理解を深め，技法に対する免疫力を を引き出す技法である。この技法は，セールスや契約の つけるための Web 学習教材について提案する。 勧誘，依頼において，日常的に用いられるものである。 受け手は一時的に自分の意思で承諾するが，あとで納得 ２．承諾誘導技法とは何か がいかなくなることもある。人間の思考の盲点を巧みに 利用して承諾へと誘導するため，受け手本人も，この技 　承諾誘導は，悪徳商法と混同されることもあるが，両 法を用いられたことに気づかない場合が多い。そして， 者は同一ではない。悪徳商法とは一般に，勧誘者が嘘を あとで気づいたとしても，契約は覆しにくく，また，相 ついて消費者をだまし，商品やサービスを標準より高額 手に対するメールや電話がつながらなくなっていたりす で購入させたり，出資させてその出資金を奪い取る行為 る。承諾誘導の技法は，社会の情報化とともに出現した である（深田，１９９８）。水野（１９９０）によれば，悪徳商 わけではないが，情報過多の中であまり時間をかけずに 法の勧誘者が用いる手口には，次の５つの特徴があると 判断を下さねばならない状況，そして，相手との人間関 いう：１）虚偽のことを言う，２）意図的に真実を隠す， 係が対面よりもインターネット等のバーチャルな世界で ３）しつこく強引に勧誘する，４）さまざまな手練手管を 築かれたものであり，いつでも容易に関係を断ち切るこ 用いる，５）広域・広範囲の人々から多額の金銭を奪い取 とのできる環境といった背景が，このような技法をより ることを組織的に行う。 効果的なものにするという側面は否めない。その意味に 　こうした違法性のある行為は，明らかに承諾誘導の範 おいて，高度情報社会を生きるにあたって，十分に注意 囲を超えて