地域におけるニーズ把握とリサーチ（調査）技法 3 つ.pdfVIP

ソーシャルワーク研究 35-4■金井敏 1 地域におけるニーズ把握とリサーチ（調査）技法 ～3 つのニーズに着目して 高崎健康福祉大学 金井敏 １．はじめに 社会福祉の発展に伴い，近年，福祉ニーズを充足するためのサービスや活動は，量的・質的に相当整 備されてきている。むしろ福祉ニーズをきちんと把握できないために，適切なサービスや福祉活動を活 用できない，あるいは実践の必要性を認識しない，というソーシャルワーカー側の問題が生じる場合も あるのではないか。福祉ニーズは一般的には個人の生活上のニーズと捉えられている。しかし，「地域に おけるニーズ把握」をテーマにした場合は，福祉ニーズを個人や家族の属人的な問題として捉えるだけ でなく，地域との関係性で捉える必要があり，ときには地域そのものに働きかける視点も必要であろう。 社会福祉が地域福祉の時代に入り，ソーシャルワーク実践は「地域」を視点とした支援を考えざるを 得ない状況になった。要介護者支援，介護予防活動，小規模多機能型ケア，認知症本人・家族支援，障 害者地域自立生活・地域移行支援，退院・退所支援，子育て支援，子ども・高齢者虐待防止，低所得者 支援，権利擁護，里親家庭支援，外国人支援，刑期満了者支援，…。これらのソーシャルワーク実践の 課題は，問題を抱えた個人や家族の身辺自立という“点”を地域自立生活という“面”に捉え直して解 決あるいは調整する必要がある。その援助方法はコミュニティソーシャルワークとして模索されている が，この実践の出発点は種々のニーズ把握にあることは言を待たない。援助方法の多様化とともに，ニ ーズ把握の技法も適切に選択され，活用されることが求められる。 本稿では，これまでの地域におけるニーズ把握の実践や考え方を学びながら，地域においてソーシャ ルワーカーが把握すべきニーズとは何かをあらためて問い直し，そのリサーチ技法はどうあるべきかを 考察したい。なお，把握技法としてのリサーチ（調査）は，質問紙などによる社会調査だけでなく，ア セスメント（評価・査定）も含めて「調べ把握する」という広い意味でのリサーチを想定している。ま た，地域におけるニーズ把握というテーマは，福祉だけでなく，医療や保健，まちづくり，マーケット リサーチなど幅広い分野で行われているが，本稿では地域福祉の実践に引きつけて考えたい。 ２．地域におけるニーズ把握の実践史と考え方 まず，わが国の地域におけるニーズ把握がどのように実践されてきたのか，具体例と考え方を概観し て，地域におけるニーズとは何かを考察する根拠を探ることとする。 （１）戦前のニーズ把握の実践 わが国の地域におけるニーズ把握は，戦前に独自の活動を見いだすことができる。1918 年の方面委員 制度の創設に尽力した小河滋次郎は，「社会測量機関としての方面委員が作成する調査カードにより，個 人の救済策と同時に，そのニーズの集積により社会の健康診断ができて社会政策の基礎となる。その両 方があって初めて完全な社会事業の機能を発揮する」と，方面委員の意義を述べている(1)。家庭訪問の ヒアリングによる個別ニーズの把握とともに，その個別ニーズから「社会の健康診断」としての社会共 通ニーズの把握が可能となる。そのようにして得られた社会共通ニーズが社会政策立案のエビデンスと して有効であることを指摘している。社会測量機関としての方面委員活動を通じて，個別ニーズと地域 共通ニーズの両方を把握する必要性を追求したことに先駆性がある。 また，セツルメント活動としての隣保館活動や社会福祉協議会（以下，社協という）の前身である同 胞援護会の活動では，個別ニーズに応じた種々の団体活動や住民ニーズに密着した在宅サービス事業の 展開がみられる。これらの活動は，福祉ニーズを個別の問題として捉える視点と地域全体で解決してい こうとする両方の着目点が据えられていると考えられる。 1 小河滋次郎「社会事業と方面委員制度」（1924年）の第1則・民衆生活の真相を詳査すべし（査験）を筆者 が現代的に要約した。 ソーシャルワーク研究 35-4■金井敏 2