[巻頭言]高齢化社会に備える.pdf

平成23年10月31日 宮 崎 県内 科医会 誌 第80号 【巻頭言】 ［巻　頭　言］ 高齢化社会に備える 宮崎県内科医会副会長 野　村　朝　清 　平成22年４月から宮崎県内科医会副会長を仰せつかった延岡市の野村です。副会長の重責は荷 が重いですが，微力ながら誠心勤めさせていただきたいと思います。 　まず，今年の３月11日の東日本大震災で言語に尽くせぬ苦労をされている東日本の皆様方にお 見舞い申し上げます。また，これからの長期にわたる復興への努力に持続的な協力をして行かな ければならないと感じております。 　さて，東日本の津波に劣らず日本の医療体制において未曽有の危機感を感じていることがあり ます。それは，ひたひたと打ち寄せる高齢化社会の津波です。 　昨今，医療費増大の危機がマスコミで報ぜられ，現に前回の診療報酬改定では，内科系は実質 ゼロ回答でした。政府は医療費の削減に躍起で，それはじわじわと診療報酬の抑制へと向かう傾 向にあります。 　しかし，医療は本質的に労働集約的な業種であり，人件費の比率が半端ではありません。安易 な診療報酬の削減が，病院の経営を立ちゆかなくさせ医療体制そのものを破壊してしまう危険性 について，現場からも注意を喚起していく必要があると思われます。新臨床研修制度による地方 の医療体制の壊滅的な打撃にみられるように，医療行政には細心の注意が必要です。 　鑑みるに，昨今の医療費の抑制は，それに伴う介護保険の費用増大へつながっただけで，介護 や医療に関わる費用全体が少なくなったわけでは決してありません。介護保険という形を取るこ とによって，見かけ上の医療費の抑制を達成したように見えますが，その介護保険もすでに維持 困難なほど支出が増大しています。 　高齢化社会は明らかに支援の必要な高齢者人口の増大をもたらすものであり，それにふさわし い大幅な福祉の予算を確保しない限り，日本の介護や医療の体制はその質の悪化どころか，最低 限の医療を維持することすらできなくなるかもしれません。 　福島の原発は1000年前の津波の記録を無視したために，史上最悪の原子力発電所の事故となろ うとしています。高齢化社会というすぐ傍に迫る危機に対して，我々医療従事者は自らを守る危 機管理をするとともに，社会に対して警鐘を鳴らしていく必要があると思います。 　我々医師は，その教育の過程で医療の知識と経験こそが最優先と考えて勉学に励んできまし た。しかし，この高齢化社会という未だ経験したことのないような危機にあっては，治療の知識 のみならず，社会全体の経済の中での医療制度の位置を意識せざるを得ません。理想的な医療を 施したくても医療体制がそれを許さないという事態も考慮に入れなくてはならなくなってきてい ます。医療制度に対して医師が積極的に発言する必要性がこれほど高まってきている時代はない ?1? 【巻頭言】 宮 崎 県内 科医会 誌 第80号 平成23年10月31日 と思われます。 　学問のことであれば内科学会で担当されるでしょうが，それとは別に社会における医療制度を 守るための研究が必要と思われます。医学の進歩を国民の福利に反映させるためには，それを実 現する医療制度の保守が絶対に必要です。このような社会における医療のあり方を考える上では 臨床内科医会は内科学会と比較しても重要な役割を果たしています。次世代の医療を担う若い先 生方が是非積極的に臨床内科医会に参加して，高齢化社会における明日の医療の質を守るため活 躍していただきたいと念じています。 ?2? 平成23年10月31日 宮 崎 県内 科医会 誌 第80号 【教授ご紹介】 進歩しつつあります。婦人科学は，主に婦人 産科医療の中心は内科医療