医療紛争の実態と解決（I）-公益財団法人生命保険文化.PDFVIP

医療紛争の実態と解決（I） 一日本・アメリカ・ドイツー 植木　哲 （関西大学教授） はじめに 1　医療紛争を見る眼 2　裁判所による解決 3　医師会による解決 4　アメリカの場合　　　　　（以下次号） 5　ドイツの場合 おわりに はじめに 1983（昭和58）年以来、私は、医事法民事法研究会を組織し、医学 的・法律学的観点から医療問題の解決にあたってきた。その間、研究 会の成果として、『医療紛争の事例と争点』（昭和60年・金芳堂）、 『医事紛争予防学・医事法律』（平成2年・日経BP社）、『医事法の現 代的諸相』（平成4年・信山社）、『世界の医事法』（平成4年・信山 社）等を出してきた。この他、『医事法講義』および『判例医療ガイ ド』が間もなく刊行される運びとなっている。 また、学会活動においても、第50回日本医事法学会で「医療紛争と 一47－ 医療紛争の実態と解決（I） 鑑定」（年報医事法学2号・昭和62年）、日本アルコール医学会との共 催で「アルコールと交通事故と法」（1991年）に関する国際シンポジ ウムを企画してきた。1996年4月に開催される日本法医学会でも協力 することになっている。 このような種々の活動の中で、個人的には、医療紛争の合理的癖決 に向けた法解釈的・法政策的研究に大きな関心を持っている。このよ うな観点から関西大学法学研究所で、1993年6月、「医療紛争処理シ ステムのあり方」というシンポジウムを企画し、議論したことがある （ノモス第5号7～56頁、平成6年）。この度、医事法教科書の完成 にあたり、医療紛争の実態と解決を、日本、アメリカ、ドイツの比較 を通して考えてみた。 1　医療紛争を見る眼 （1）医療従事者の数 1994年の調査によれば、日本の人口はおよそ1億2400万人であるが、 そのうち医師の数は23万0519人となっている（歯科医師は8万1055人）。 通常、約8000人前後が毎年医師国家試験に合格するので、今日、医師 の数はかなりの数に上り、人口10万人あたり184．4人となっている （歯科医師の場合は62．2人）。 一説によると、医師は過剰気味にあると言われる。「将来の医師需 要に関する検討委員会」の試算によれば、平成37年には10％の供給過 剰が見込まれるとして、「昭和70年を目途に新規参入を最低限10％削 減すべきである」との提言が行われている（昭和61年6月）。事情は 歯科医師においてもっと深刻であり、「将来の歯科医師需要に関する 検討委員会」は、平成37年には20％の供給過剰が生じるとして、「昭 和70年を目途に新規参入を最低限20％削減すべきである」としている 一48一 医療紛争の実態と解決（I） （昭和61年6月）。しかし世界の医療人口と比較するとき、この数字 は必ずしも心配するほどのものではない、とも考えられる。 なお、1992年度における就業看護婦（士）の数は44万1309人、就業 准看護婦（士）の数は35万4501人である。近時、看護大学（短大を含 む）が相次いで新設されている。看護婦（士）の地位の向上および確 立が望まれる。 表1各国の医療従事者数（1987年世界統計年鑑） 国 また は 地 域 人 口10，000人 医　 師 歯 科 医 師 薬 剤　 師 看 護 職 員 助 産 職 員 年（ 次 ） 当 りの医師 オ ー ス トリア 19，451 26．1 2，225 26，596 1，059 （1985） ベ　 ル　 ギ　 ー