坂本真树.PDFVIP

広告コミュニケーションにおける ブランド知識とタレント知識のダイナミズムに関する研究 坂 本 真 樹 電 気 通 信 大 学 電 気 通 信 学 部 人間コミュニケーション学科助教授 (電気通信大学電気通信学部専任講師) ※ （ ） 内 は 応 募 時 の 所 属 １．はじめに ブランド知識を形成する要素として、広告キャンペーンに起用されるタレン トの役割の重要性は国内外の広告実務において強く認識されているが、タレン ト起用には多額の費用がかかるため、費用対効果に関する科学的な説明が求め られている。また、好意度の高いタレントを複数ブランドが起用する傾向が見 られるが、そのことが独自のブランドアイデンティティの確立や購入意向に及 ぼす影響など、タレント起用の危険性も指摘されている。このようなタレント 起用の費用対効果（ブランドの認知度と好意度を高める効果、商品カテゴリご と、タレントタイプごとに期待できる効果の違いなど）については、様々な理 論的枠組みによる研究が行われている。 本研究では、知識形成プロセスと知識カテゴリ写像という認知科学的関心を 背景とし、ブランド知識とタレント知識の写像関係の解明を目指す。さらに、 工学的手法によりブランド知識とタレント知識の写像関係の計算機上への可視 化を試みる。 ２． 知識カテゴリのダイナミズムに関する研究の背景 人間の知識の構造と形成については認知科学において諸説あるが、本研究で は、経験において接する具体的な性質をもつものから抽象的な構造（スキーマ） を抽出するというボトムアップな知識形成プロセスに基づく構造に着目する。 ブランド知識形成メカニズムについても諸説あるが、本研究では、製品属性、 消費者便益、ブランドパーソナリティという三つの要素から構成され、その知 －31－ 識構造は具体的なものから抽象的なものへとボトムアップに形成される階層的 ピラミッド型スキーマ構造をなすと想定する。 さらに、本研究では、知識形成に関わる認知現象の一つとして、二つの構造 を比較する能力を前提とした知識の写像現象（メタファ現象）に着目する。メ タファの定義には諸説あるが、本研究が前提とする知識形成モデルにおけるメ タファは、比較される二つの構造が異なる経験領域であり、目標領域が起点領 域と結び付けて理解される写像である。ブランド知識とタレント知識は、「モ ノ」と「ヒト」という異なる領域である。メタファでは「一方を起点領域とし 他方を目標領域とする内在的な方向性がある」とされるが、ブランドのキャン ペーンとしてタレントを起用するという戦略においては、一般的には起点領域 としての役割が期待されるのはタレント知識であり、目標領域がブランド知識 であると考えられる。また、メタファには、比較的抽象的、あるいは十分な構 造を持たない事柄を、より具体的で構造化された事柄によって理解するという 効果がある。したがって、まだ確立していない新しいブランドを、人気度・知 名度の高い確立したタレントが推奨することによる効果が期待できる。ただし、 すでに確立しているブランドを知名度の確立していないタレントが推奨すると いう場合には、写像の方向性が逆になる可能性も考えられる。また、ブランド とタレント双方ともある程度確立している場合には、どちらかを起点領域、ど ちらかを目標領域として想定することはできない。そのため、本研究では、ブ ランド知識へのタレント知識の影響性の解明を主眼とはするものの、双方向で の写像関係を念頭において研究を進める。さらに、メタファによって結ばれる 関係には、「目標領域と起点領域の要素間に対応関係がなければならない」とい う特徴があるが、本研究ではブランド知識とタレント知識に同様の構造を想定 し、両者の対応関係が