汉方频用処方解説当帰芍薬散①岸田友纪.PDFVIP

2010 年 10 月 13 日放送 漢方頻用処方解説 当帰芍薬散① 大阪大学大学院医学研究科 漢方医学寄附講座 助教 岸田友紀 おもな効能 当帰芍薬散の主な効能効果です。各メーカーが記載している効能は、貧血・倦怠感・更 年期障害・月経不順・月経困難・不妊症・動悸・慢性腎炎・妊娠中の諸病・脚気・半身不 随・心臓弁膜症です。老若男女を問わずに使用できますが、女性特有の疾患に応用される ことが多い処方の一つです。 処方の出典 当帰芍薬散の原典は、金匱要略の婦人雑病の条文で、簡単な表現にとどまっています。「婦 人の腹中の諸疾痛は当帰芍薬散之を主る」婦人の腹の痛む病気はすべて当帰芍薬散で治る ということです。また、別の条文には、「婦人、妊娠、腹中 痛の者は当帰芍薬散之を主る 㽲 当帰、芍薬、伏苓、白朮、沢潟、川芎 右六味、つきて散と為し、方寸ぴを取り酒に和し て日に三服す」とあります。腹中 痛というのは、おなかがひきつれるように、急に痛むこ 㽲 とです。つまり、妊娠に関係する婦人の腹痛に当帰芍薬散が適応となる ということです。 生薬構成の漢方的解説（薬能） 構成生薬は、当帰、川芎、芍薬、茯苓、白朮、沢瀉です。茯苓、白朮、沢瀉は、いずれ も燥性ですので、水毒の症状に効果を発揮します。当帰、川芎は、温性補血作用があり、 芍薬は鎮痛・鎮痙作用があります。大塚敬節先生は、「漢方診療医典」のなかで、「当帰、 川芎、芍薬と組んで腹痛を治し、貧血を補い、血行を良くして冷え症を治し、茯苓、白朮、 沢瀉と組んで利尿を調整し、頭冒、めまい、動悸を治する」と述べていらっしゃいます。 使用目標・処方適応のポイント 大塚先生の定められた使用目標が有名です。 それによれば、「老若男女を問わず、貧血の傾向があり、腰脚が冷えやすく、頭冒、頭重、 小便頻数を訴え、時にめまい、肩こり、耳鳴、動悸のあることがある。筋肉は一体に軟弱 で、女性的であり、疲労しやすく、腹痛は下腹部に起こり、腰部あるいは心下に波及する ことがあるが、腹痛がなくても本方を用いてよい」とあります。 大塚先生の師である湯本求真先生は、慢性病はすべて血の異常に関係があるとして、慢 性病では必ず当帰芍薬散か桂枝茯苓丸を組み合わせていらしたそうです。湯本先生は、「筋 肉のしまりが悪く血色のすぐれない貧血の傾向がある。美人には当帰芍薬散の証が多い。」 として、筋肉のしまりがよく血色のよい桂枝茯苓丸証と鑑別されていたようです。 一方で山本巌先生は、「皮膚の色が蒼く、顔色も蒼く血色がない。水肥りであることが多 い。痩せ型と書いてあるものもあるが、むしろ水滞のため水太りが多い。ただし太ってい ても筋肉は軟弱で力も弱く、体が重く、動作が鈍く動かしにくい。したがって疲れやすい。 ヒフク筋けいれんのこむらがえりや、筋肉が不随意的にピクピク動くことがある。皮膚も 水分が多く湿疹や皮膚炎になると分泌液が多い」と述べていらっしゃいます。 余談ですが、当帰芍薬散証には、竹久夢二の美人画のような色白、面長でほっそりした 柳腰の女性が多いとして「トウシャク美人」と表現されることもあります。ただし、あま りこの表現にこだわることは現実的ではないように思います。 腹診の所見としては、腹壁はやわらかく、臍傍の圧痛や胃内停水、腹部の動悸をふれ、 脈診の所見としては、沈弱細というのが、教科書的です。しかし、これがなければ当帰芍 薬散を使えないというわけではありません。 いずれにしても、血に作用する川芎と当帰が入り、利水の生薬である茯苓、白朮、沢瀉 が入っているわけですから、血の異常たとえば月経困難症や冷え症、水の異常たとえばむ くみ・頭痛やめまいといった症状をあわせもつ症例への適応を考えればよいと思います。 当帰芍薬散の副作用として、胃腸障害がありえます。当帰芍薬散が効果を発揮しそうな症 例は、案外、胃腸が弱くて最初からはこの処方を服用できないこともあります。まず、そ