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215 芹沢光治良の作品に現れた中山みき像を通して彼の 宗教観をみる―ニューエイジ運動との接点― 黄 耀儀 1. はじめに 芹沢光治良にとって神や宗教の問題は生涯を貫くテーマである。芹沢の文学 作品には、神や信仰を追求する主人公の姿、「神様」の登場などの描写が度々見 られる。天理教に帰依した家庭で生まれた芹沢は、天理教との関わりをしばし ば作品に記しており、その中では天理教教祖中山みき（1798 年-1887 年）の生 涯を描いた文学作品は『教祖様』である。1950 年に『教祖様』を執筆するまで 主人公の宗教性などを扱う作品があるとはいえ、神と信仰の問題を真剣に語っ 1 てはこなかった。そして、芹沢の晩年の神シリーズ作品 （1986 年に始まる）は、 芹沢自身が中山みきとの霊的な交流体験によって、神と人間に関することを詳 述するものである。鈴木吉維は『教祖様』が晩年の神シリーズへつながる重要 2 な作品であると指摘している 。『教祖様』、神シリーズ作品は、作者の宗教観を 明確に表すものであり、多くの読者に改めて自身の信仰観を思考するような機 会を与える宗教文学の作品でもあるといわれている。 『教祖様』と神シリーズの作品において、中山みきを描くにあたって芹沢は、 教祖を人間として造形する態度を明確にしている。その姿勢には、1838 年にみ きが神の啓示を受けた時点（神がかり）からみきが神になったという天理教教 団の主張と、決定的な相違がある。天理教教団の作製した『稿本天理教教祖伝』 （1956 年）においては、1838 年の神がかり以後のみきは神性が強調され、人間 性3は問われない。したがってすべての行動が神的存在として人々を救済する活 動のさまざまな現れでしかなかったとされる。このような理解においてはみき 4 の神がかり以後の人間としての心の成長は必要とされないのである。そのため、 天理教ではみきが神として崇拝されている。だが、神がかりの時点からのみき が既に神だと見られ、苦悩や希望などの人間的感情が伴わないという教義の解 釈がロボット説だ（みきは自己判断の能力を失い、神に操られる人形に等しい） 5 という批判もある。 『教祖様』において芹沢は、みきが神意の受容をしてから、人間としての苦 216 黄 耀儀 悩を抱え神意と闘って自己の意識変容の達成をとげ、自身の信念体系の形成に 至るまでの、彼女の内的世界について詳述している。現在、『教祖様』の作品に 6 関する先行研究 の多くは、天理教信者である両親の信仰生涯に基づいて芹沢の 執筆動機を論じたり、芹沢自身の神観、教団に対する態度を検討しているが、 作品に現れたみきの内的世界、内的な経験に触れているものは少ない。そのた め、筆者は芹沢がみきの内的世界、彼女の宗教家としての思想をどうとらえて いるのかに関心を持つようになった。ところで、弓山達也は芹沢の宗教観が天 理教からの影響があり、そして彼の宗教観がニューエイジ運動にみられる世界 7 観に親和力があると指摘した 。本稿では、中山みきの生涯を語った『教祖様』 を主にして、神シリーズの作品をも含み、これらの作品に現れた中山みき像を 通して芹沢の宗教観を検討する。また、彼の宗教観をニューエイジ運動と結び つけ、その接点の解明を試みる。 2. ニューエイジ運動との接点 ニューエイジ運動は 1960 年代後半から 70 年代にかけて、超自然的・精神的 な思想をもって既存の文明や科学、政治体制などに批判を加え、それらから解 放されると同時に、東洋思想や神秘主義な