近年の「いじめ」の問題の理解と対応をめぐって.pdfVIP

近年の「いじめ」の問題の理解と対応をめぐって Understanding and Coping with Problem of “Ijime” Bullying among the Students （ ） 粕谷 貴志 Takashi Kasuya 奈良教育大学大学院教育学研究科教職開発講座 School of Professional Development in Education, Nara University of Education 1. はじめに 問題の「掘り起こし」「浸透期」をへて「全社会的な 警察庁（2014）は，2013 年中にいじめが原因と 問題」へと社会問題化したことを指摘している。さ して摘発された暴行や傷害などの事件は400 件を超 らに，その過程で，いじめという概念に道徳的な意 えており，近年増加傾向であることを明らかにして 味が付与され「悪」として確立してきたことを示し いる。件数でみると，最近５年間で約 2.5 倍に増加 ている。つまり，いじめの問題は，決して健全とは しており，社会的な意識の高まりや定義の改定によ いえないが，人間の社会なら「どこにでもあるもの」 る増加の影響を考慮にいれても深刻な状況であると から，「人間として許すことのできないもの」へと問 いえよう。 題化し，道徳的に「悪」「逸脱」であるという意味の 1980 転換が起きたというのである。いじめの問題は，第 いじめ問題は， 年代から社会問題化し，その 1980 1990 2000 一の波（1980 1990 後， 年代半ば， 年代半ば， 年代半ば 年代），第二の波（ 年代），第三 に大きな議論が起きている。いずれも，マスコミに の波（2000 年代）を経ながら（森田, 2010），徐々 大きく取り上げられて報道されたことがきっかけと に理解が進み，学校や社会での対応の視点もそれに なっている。1985 年の東京都中野区中学２年生徒 伴って変化してきたと見ることができる。 自殺事件，1994 年の愛知県西尾市中学２年生徒自 本稿は，いじめの問題に対する，これまでの文部 殺事件，2006 年の北海道滝川市小学６年児童自殺 科学省（文部省）の対応および，いじめに関する諸 事件および福岡県筑前町中学２年生徒自殺事件であ 家の言説を概観し，この問題の理解と介入の視点を る。1980年代と 1990年代は，当時の文部省によっ 明らかにすることが目的である。 2000 て設置された会議から， 年代には，首相の諮問 会議である教育再生会議から緊急提言が出されてい 2. 国の対応 る。 1980年代からの文部科学省（文部省）を中心とし 近年では，2011 年に滋賀県大津市の中学２年生 た国の対応を概観する。 徒自殺事件が起き，その背景に，いじめがあったこ とが明らかになる（大津市立中学校におけるいじめ 2. 1. 1980年代 2013 1985 に関する第三者調査委員