日韩経営システムの転换点分析ーHyundaiとToyotaの比较.pdfVIP

日本国際経済学会第 65 回全国大会（2006 年 10 月 15 日、名古屋大学）・第９分科会報告論文 日韓経営システムの転換点分析 – Hyundai とToyota の比較– 李 泰王（愛知大学） はじめに 本稿は、日米韓の 3 大自動車メーカー間で成し遂げられたおよそ 30 年刻みのキャッ チアップの過程のなかで、特に、トヨタ自動車と現代（ヒュンダイ）自動車に見られ る経営システムの特質を浮き彫りにする。後発メーカーのトヨタの成功はその裏を返 せば、ヒュンダイ自動車の成功が可能であることを示すものと考えられる。日韓の経 営システムの分析においては、各国におけるシステム構築の転換点を個別に析出して、 相互を比較しなければならない。 韓国の経営システムは、長い間アメリカ的経営や日本的経営の亜流として位置づけ られるなどその実態評価において不充分であった。むしろ大国中心史観の慣性によっ て見捨てられることさえ見受けられる。このような視点に依拠して、第 1 節では、経 営システムの理念の本質を創始者の豊田佐吉翁と鄭周永翁の企業家精神に求めること にした。第 2 節では、アジア的経営の 2 類型としてトヨタとヒュンダイの企業管理の 形態を比較する。第 3 節では、日韓の両システムが、労働市場や雇用関係の変化を伴 いながら企業内外の大きな危機にさらされている現状を明らかにする。なお、最終的 に本稿は、成長一辺倒の日韓の経営システムが条件次第では如何に有害なのかをアジ ア現地化の過ちに照らしてみることによって、誤解や現実乖離の論理の自己増殖が繰 り返されている（一部の）日本的経営論に対して批判的検討を促すことを目的として いる。 1 第 1 節 企業家精神の日・韓比較 １．現代自動車の創始者・鄭周永 現代自動車の社内には至るところに「勤勉・倹約・親愛」と書いた額が掲げられて いる。この社是は、土木職工や小売店奉公人などの経験をもつ「現代財閥」の創始者・ 鄭周永（チョング・チュウヨング）の座右の銘であったと言える。回顧録のはしがき で、「宗教には奇跡があるかも知れないが、政治や経済には奇跡はあり得ない」とする など不屈の勤労意識を披瀝している（鄭周永、2001）。一生懸命働き、厳しく節制し、 また家族的信頼を重んじることは、民間企業レベルの行動様式に止まらず、発展途上 の 1960～70 年代の韓国社会に求められた切実なイデオロギーの１つであった。現代自 動車は経済開発 5 ヵ年計画の第 2 期初年度にあたる 1967 年に創設されたが、現代自動 車の前史を織り成す鄭周永の歩みを捉える必要がある。 鄭周永は、日本統治下の 1915 年に、朝鮮半島北部の江原道通川郡で小規模自作農 1 第 1 節は、李泰王 2006 ｂ、132～136 ページを修正加筆したものである。 1 家の 8 人兄弟の長男として生まれた（図表１）。田園生活の苦労を後にしてソウルに向 かったという。強靭な体力を頼りにして土木職工などの仕事に就いた後に、米穀商店 の住込み生活の傍ら帳簿や接客の手腕を身につける。商売上手な人柄を評価されその 店の経営を譲ってもらったことが将来の企業家の道を開くきっかけとなった（1938 年、 京一商会開業）。ここから企業家の才能が見え始めたのであるが、無残にも日中戦争直 後に強行された米穀配給統制のため廃業に追い込まれてしまう。次に自動車補修業に 乗りだすが（1940 年、アド・サービス合資会社設立）、太平洋戦争時の企業整備令の ため 1943 年にこの事業を畳まざるを得なかった。 （ 相 信 世 熙 順 仁 創 周 1( 9