『詩人の血』 における言語と人物について.pdfVIP

85 『詩人の血』における言語と人物について 大川 哲男＊ Tetsuo Ohkawa はじめに る. このサラとサイモンの結びつきを夢想家(サイモン) この作品はオニール後期の作品で1939年から1942年に と現実主義者(サラ)の問のそれであり，夢がサラの持 わたって書かれ，オニールの死後4年たった1957年に初 つ現実的な欲望(greed)によって敗れると批評家Berlin めて上演された。彼は晩年アメリカの独立戦争(the Re- は言っている汐しかし彼らの問にそれほど思想的な関 volutionary War)から大恐慌(the Depression)に至る約 係はないように思われる. 200年間のアメリカの歴史をアイルランド移民の家族の もう1つの筋は，この宿屋の主人であるコーネリアス 歴史として描く11の劇(cycle plays)を執筆しようとした がハーフォードによって侮辱されたとして，彼に闘いを が中途で挫折してしまい，そのほとんどは自ら焼いてし 挑みに行くが敗れて帰ってくるというものである. コー まった. その中でこの作品だけは完全な形として残った. ネリアスは自分が落ちぶれてはいるが，昔はアイルラン この彼の書こうとしていたllの劇は‘A Tale of Posses- ドの貴族であり，また少佐(Major＞としてウエリントン sors Self-Dispossessed(所有者の喪失の物語)と名付け 将軍の下で武勲をたてたことを誇りにし，周りの人間を られていたが，このタイトルが示すようにオニールはア 馬鹿にしていた. このコーネリアスの敗北について，批 メリカの悲劇がその所有欲によって起こったと考えてい 評家のCarpenterはアイルランド的ロマンチストである た. オニール自らが次のように言っている. 彼に対する現実主義者サラの勝利であると言っている America， instead of being the most successful country が，これも少し的はずれのように思われる飽自分が紳 in the world， is the greatest failure. lts the greatest 士であるというコーネリアスのpipe dreamが現実に failure because it was given everything， more than any よって敗北したことは明らかであるが，それはサラに敗 other country . . . lts main idea is that everlasting game けたのではない. 紳士であることをやめ，酒場で酒 of trying to possess your own soul by the possession を飲むだけの下らないアイルランド移民であると自らを of something outside of iti) 卑