日本およびニュージーランドにおけるプレイセンターのソーシャルキャピタル効果に関する事例研究.PDFVIP

特集：諸外国の就学前教育・保育サービス 子どもの「育ち」を保障する社会のしくみ （公募）論文 日本およびニュージーランドにおけるプレイセンターの ソーシャルキャピタル効果に関する事例研究 参加する親たちの精神性や行動特性を手がかりにして 佐藤 純子 ■ 要 約 本稿では、ニュージーランドで戦時中に始まったプレイセンターという親たちによる協働保育活動を扱っている。 具体的には、プレイセンターに通う当該親たちがプレイセンターでの自主的な保育運営と学習を経験することによっ て、ソーシャルキャピタルを蓄積しているのかを実証分析している。筆者は、プレイセンターにおけるソーシャル キャピタルの定義を参加者間の信頼や関係性のなかで得られる互酬性と解釈し本研究で用いている。調査方法は、 ニュージーランドと日本のプレイセンターに通う親たちに対する半構造化インタビュー調査を用い、Powellらが2004 年から 2005年に実施した TheEffectofAdultPlaycentreParticipationonCreationofSocialCapitalinLocal Communitiesの研究と比較検討を行った。その結果、日本の参加者はニュージーランドの参加者より子育てサービ スに依存しがちな傾向にあるものの、活動を重ねることで、参加者の養育態度や自分自身に対する評価が肯定的に 変化し、参加者同士の互酬性を高めていることが示された。このことは、親がサービスの受益者だけではなく、主 体者として実践することの意義と可能性を示唆しており、今後のわが国の子育て支援策に応用できると考えられる。 ■ キーワード 協働保育活動、ニュージーランド、プレイセンター、ソーシャルキャピタル、子育てネットワーク 1. はじめに 題が社会的に注目されるようになってきている。 従来、地域コミュニティや家庭には、成員同士 本研究の目的は、ニュージーランド （以下、NZ の相互扶助機能があった。しかし、地域社会や とする）において1940年代に生成した親たちの協 家族形態が変質すると、そうした機能が崩壊し、 1） 働保育活動 であるプレイセンター（以下、PCと 個々の人間を私事化し、孤立化する傾向を強め する）を研究することにより、今後のわが国の子 た。 育て支援に対する示唆および地域社会の崩壊を 特に、子育て期にある現代の親たちは、地縁 解決するために、近年採用されているソーシャ や血縁によるネットワークが得にくい環境に置 ルキャピタル論（日本では、社会関係資本論とも かれているため、多くの者が育児ストレスや子 訳される、人々のつながりから蓄積される互酬 育ての負担感を経験した。その結果、わが国は、 性や信頼関係のこと）の有効性を提示することに 子どもが持ちにくい社会と称されるようになり、 ある。 少子高齢化社会を迎えることとなった。政府は、 昨今、わが国では、密室育児や親の子育て能 こうした状況を打破しようと、少子化対策のも 力の低下、児童虐待問題など子育てをめぐる問 とに数々の子育て支援策を講じてきた。しか － 16－ 日本およびニュージーラ ンドにおけるプ レイセンターのソーシャルキャピタル効果に関する事例研究 ながら、これまでの子育て支援事業では、親た ついては十分な説明がなされていない。 ちをサービスの客体とする施策が多く、親たち Manning（2008）は、PCに参加する親たちを調 の主体性を尊重し、親の成長を支え