定量的画像解析のための情報技術 - microscopy.or.jp.pdfVIP

発生過程における細胞移動のライブイメージング解析 定量的画像解析のための情報技術 Information Technology for Quantitative Bio-Image Analysis 小　　林　　徹　　也 Tetsuya J. Kobayashi 東京大学生産技術研究所 要　旨 イメージング技術の発展により，生命科学の様々な分野において画像や動画が実験の一次データとして得られるようになってきた． しかし多くの場合，画像の評価方法は「見る」という定性的かつ主観的な方法にとどまり，画像が有する定量的情報が最大限に活 用できていない．また最近では，データ取得の簡便さから「見る」ことが不可能なほどの多量の画像も生成されている．画像解析 に基づく定量的解析や自動的な情報の取捨選択は，今後の生命科学研究において不可欠であり，バイオイメージインフォマティク ス分野として台頭しつつある．本総説では，バイオイメージインフォマティクスに関連する背景，基本情報などを豊富な参考文献 とともに紹介する．また具体的な画像解析の問題として，核などの粒子オブジェクトの同定，膜などの境界領域の同定，そして分 子発現の定量化に関わる画像解析例を紹介する．最後に，今後のこの分野の発展において解決すべき課題を議論する． キーワード ：バイオイメージインフォマティクス，画像解析，定量生物学，システム生物学 関係など）を抽出することである．更に複数の異なるプロー 1. バイオイメージインフォマティクスの台頭と定量画像 ブを用いた多色のイメージングデータがあれば，1 色で核な 解析 どを認識し，別色のプローブで特定の分子の発現量などを測 5） バイオイメージング技術の急速な発展により，生命科学の ることも可能になる ． 様々な分野において画像や動画が実験の一次データとして得 もしデータがタイムラプスで，複数の時間点での情報が得 1） られるようになってきた ．しかし多くの場合，画像の持つ られる場合，特定の細胞や小胞の追跡により，多数の物体の 6,7） 情報の評価方法は画像を「見る」という定性的かつ主観的な 運動が作る流れ場のようなものや ，分裂する細胞の系譜 8） 方法にとどまっている．しかしながらバイオイメージには， （linearge）の情報が抽出できる ．もちろん，各細胞の遺伝 9） 細胞や組織の形状，分子の空間局在，タンパク質の発現量な 子発現の経時変化も計測可能である ．さらに，異なる変異 ど，単純に「見る」だけでは評価しきれない定量的な情報が 体についてイメージデータが無数に得られる場合，機械学習 2） 含まれている ．また，動画データには時間的変動の情報も 的なアルゴリズムを活用して，イメージデータだけから異な 3）