中国における卸売業の展開可能性総合商社の取り組みから.PDFVIP

経営志林 第45巻3号 2008年10月 23 〔論 文〕 中国における卸売業の展開可能性 ―総合商社の取り組みから― 矢 作 敏 行 期のまっただなかにある｡ 地域別商品別に分断さ 1. はじめに れていた計画経済体制の後遺症から, 全国規模の 日本の流通は卸売業の存在により特徴づけられ 卸売業者は存在しないが, 成長著しい東部沿岸部 ている｡ 歴史的に古いルーツをもつ卸売業は長い の主要都市には加工食品, 菓子, 酒類, 日用品雑 間, 地盤沈下が懸念されてきた｡ 事実, 今世紀に 貨のブランド品の代理店事業を営む国有, 民営卸 はいり, 卸売業界はさらなる業績低迷に直面し, 売企業が現われ, そのなかから商流, 物流, 資金 大型合併が相次いでいる｡ しかし, それでも ｢問 流を束ねる本格的な卸が登場している｡ 上海市南 屋無用論｣ が喧伝された1960年代から今日に至る 浦食品有限公司, 北京京客隆商業集団股份公司, まで, 卸は生産と消費を架橋する流通機能の遂行 広州華新 (集団) 貿易有限公司等が代表格であ において, 一定の役割を果たしてきたのもまた, る, まぎれもない事実である｡ 小売・卸売市場の開放政策は1990年代前半から 激動する環境変化のなかにあって, 卸売業界で 漸進的に進められた｡ 卸売業への外資参入は99年 は近年, 総合商社が資本力と人材力にものをいわ 6 月, ｢外商投資商業試点弁法｣ が公布され, 中 せて, 食料品分野を中心に積極的なグループ化を 央政府レベルで正式に条件付きで認可されるよう 推し進めている｡ しかも, 総合商社は国内市場の になった｡ 100％外資は禁止されたが, 合弁会社 縮小傾向を見越して, 卸売事業の国際展開にも意 を設立する都市や外資の出資比率 (49％以下), 欲を燃やしている｡ 国内で蓄積した卸売経営の専 資本金等を制限するかたちで, 中外合弁事業が認 門知識や経験をアジア新興国市場に移転し, グロ められた｡ その後, 制限が撤廃されて, 卸売業へ ーバルな規模での経済成長を取り込もうする意図 の外資参入が原則自由となるのは5年後の04年12 である｡ 焦点は巨大市場・中国である｡ 月のことである｡ その中国の卸売業は第2次世界大戦後, 2度に その過程で, 外資誘致に積極的な地方政府は中 わたり劇的な体制変更を経験した｡ まず, 1950年 央政府の漸進的な市場開放を先取りし, 独自の判 代社会主義経済体制の確立に伴い, 1級卸 (中央 断基準から卸売関連事業の中外合弁事業を部分的 の部局・専業公司), 2級卸 (省レベルの専業公司), に認可する措置をとっていた｡ 3級卸 (市・県レベルの専業公司) の3段階卸売シ 日本の総合商社は市場開放政策の進展と消費ブ ステムが形成され, 地域別商品別に国家が管理す ームの到来を背景に, 1990年代半ば以降中国市場 る配給システムが整備された｡ ところが, 1978年 で日本的な卸売事業を展開し, ｢内販事業｣ を拡 以降改革開放政策が導入されると, 今度は国家の 大する方向へ大