06A0227资生堂川副.PDFVIP

1. 課題番号： 2006A0227 2. 課題名： 毛皮質の微細繊維構造解析による毛髪の形状（クセ毛）要因の解明 3. 実験責任者： ㈱資生堂 ライフサイエンス研究センター 川副智行 4. 使用ビームライン： BL40XU 5. 実験 ①利用目的および利用成果の概要 毛髪（毛幹）はケラチンを主成分とする架橋構造の豊富な繊維状組織から構成されてお り、色・形状・物性などが個人により微妙に異なっていることが知られている。特に形状 や物性は、微妙な違いでもクセ毛や髪質の違いとして認識され、消費者の髪に対する悩み として関心の強い項目となっている。しかしながら、ヘルスケア領域での毛髪研究は、そ のほとんどが毛髪のダメージによる構造・物性変化に関する研究であり、個人差に着目し た毛髪形状（クセ毛）や物性変位（髪質変化）を対象とした研究例は極端に少ない。髪質 については安田らの研究 1),2)により、硬さは毛小皮（cuticle）に依存するという報告がなさ れているが、クセ毛については、日本人の毛髪はアフリカンヘアで確認されるような極度 の形状変化ではないことから詳細な報告はなされていない。我々はこれまでの毛髪のクセ に関する研究において、形状の異なる毛髪の毛皮質(cortex)の縦断面・横断面の TEM 観察 を行い、クセの有無によるフィブリル構造の違いを確認している。この研究において、ク セのある毛髪やクセの強い体毛ではクセのない毛髪の毛皮質に比べ、フィブリル構造の乱 れが毛皮質内に広く確認されること（図１）や、クセのない毛髪の毛皮質でも毛皮質外周 部から３μｍ付近までの構造は、クセのある毛髪で確認されるフィブリル構造の規則性の 乱れが確認されること（図２）を見出している。そこで本研究は、毛髪形状（クセ毛）と 毛皮質内部の構造の分布との関連を確認すべく、マイクロビーム X 線を用いて各種毛皮質 内部の繊維構造のＳＡＸＳパターン分布を解析し、部位特異性の有無を確認した。 その結果として、クセのある毛髪とクセのない毛髪では毛皮質内部の構造には違いがあ り、配向性のある構造の存在がクセのある毛髪・クセの強い体毛において確認された。こ のことで毛髪形状（クセ毛）と毛皮質内の配向構造の存在に何らかの関連があることが示 唆された。 ②利用方法および利用の結果得られた主なデータ 今回我々は、クセのない直毛、クセのある毛、クセの強い体毛などの毛髪形状の異なる 様々な毛髪サンプルを数種類準備した。毛皮質のコルテックスの内部分布を詳細に確認す るため、これらの毛髪はクライオスタット装置内で３０μｍの厚さにて凍結切片とした。 切片はカバーグラスに挟み込み、照射用のサンプルとした。サンプルは毛髪断面に対し垂 直方向から５μｍに調整したマイクロビーム X 線を照射した。照射は毛髪の断面部位をす べてが網羅できるように５μｍ間隔の格子状に行い、得られるＳＡＸＳパターンの部位特 異性を確認した。 ＜結果＞ 図３に示すように各種毛髪の切片の中心線を通るように走査したラインと、毛髪外周部 付近で毛皮質を通るよう走査したラインを代表例としてＳＡＸＳパターンを示す。この走 査では、最初に毛小皮構造が確認され、その後毛皮質の構造が確認され、最後に再び毛小 皮の構造という順番でＳＡＸＳパターンが確認されるが、今回は特に毛皮質のＳＡＸＳパ ターンに着目している。図４にクセのない毛髪（頭髪）、図５にクセのある毛髪（頭髪）、 図６にクセの強い毛髪（体毛）のＳＡＸＳ測定の結果を示す。なお、図４～６では、各種 毛髪の切片の中心線を通るように走査したラインでのＳＡＸＳパターンをａとして、毛髪 外周部付近で毛皮質を通るよう走査したラインでのＳＡＸＳパターンをｂとして表記する。 これらの結果より、クセのない毛髪の毛皮質内部と、クセのある毛髪・クセの強い体毛 の毛皮質内部では、ＳＡＸＳパターンに違いが見られた。図４のクセのない毛髪の毛皮質 のＳＡＸＳパターンは、小角側の強い散乱とその周りを囲む散乱が共に等方的な円形を示 している。一方で、図５のクセのある毛髪と図６のクセの強い体毛においては、小角側の 強い散乱は楕円形を示しており、その周りを囲む散乱は楕円の長径方向に配向しているこ とが判明した。配向性を示すＳＡＸＳパターンは毛皮質全体にわたって観測されたことか ら、クセのある毛髪・クセの強い体毛の毛皮質は全体的にある一定方向に配向した構造と なっていることが分かった。 ③結論、考察、引用（参照）文献等 今回の測定結果より、外観