介护精神型老人保健施设.PDF

介護精神型老人保健施設 (介護精神型老健)の問題点 海上寮診療所 上 野 秀 樹（精神科医） １．はじめに 介護精神型老人保健施設とは 平成24 年2 月に、日本で精神医療福祉サービスを提供する最大の団体で ある日本精神科病院協会（以下、日精協。日精協には、平成23 年 12 月時点 で１２１４の民間精神科病院が加盟）が「我々の描く精神医療の将来ビジョン」 （案）を発表し、会員病院に限定したパブリックコメントを求めた後、6 月に 最終版を公表しました。その中で新たな高齢者介護施設類型として、介護精神 型老人保健施設 （以下、介護精神型老健）の創設が提案されています。精神科 に長期入院している患者のうち、主として介護的対応を必要としている入院患 者（特に高齢者）を介護精神型老健に移行させることを想定しています。 これは、平成20 年に療養病床削減のために創設された転換型老人保健施設 をモデルにしたものです。平成18 年に療養病床の再編として介護型療養病床 の廃止が決定しましたが、その移行先として、従来の療養病床があった病棟を ほぼそのまま老人保健施設に転用する介護療養型老人保健施設（転換老健）が 新たに創設されたのです。介護精神型老健とは、この転換老健の精神病床版と いうわけです。 日精協では、将来的には需要が減じていき、消滅する方向にある施設となる ことから、既存病棟の転換（現在の療養病床の病棟転換による転換老健と同様 の措置）で対処していくものとしています。 日本の精神進化医療の歴史をみてみましょう。 精神疾患は決して現代の疾患ではなく、古くから精神障害者の方がいらっし ２．介護精神型老健問題の背景 ゃいました。江戸時代までは、精神障害者の支援は寺社の支援事業として行わ この介護精神型老健の背景には、日本の精神科医療の大きな問題点がありま れてきました。我が国では、初の公立精神科病院として、明治 8 年に京都南 す。日本の精神科医療の現状と歴史を知ることからはじめましょう。 禅寺の境内に京都癲狂院が設立されました。 明治時代のはじめには、精神障害者に関する法的制度はなく、もっぱら各地方 日本には病院のベッドが約160 万床あり、そのうち34 万8 千床が精神科 の裁量にゆだねられていました。相馬事件などをきっかけに明治33 年、精神 病床です。諸外国に比較してたくさんの精神科病床が存在しています。 障害者の保護に関する最初の一般的法律「精神病者監護法」が制定されました。 この法律の制定により、我が国で初めて精神障害者の処遇が法的に一律に規定 されたのです。精神障害に対しては、有効な治療法がほとんどなかった時代で す。この法律では精神障害者を抱える家庭において、自宅の一室や物置小屋の 一角に専用の部屋をつくり、精神障害者を監置し、それを行政（内務省-警察） が管理するという、諸外国には例のない私宅監置の制度が認められていました。