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近代における漢字文化新分野の形成 ――文義謎を例として―― 呉 修喆 はじめに （1）文義謎とは 中国における「謎」というもののうち，漢字の表意文字としての特性を生かし，漢字の （1） 音・形・義を利用して文学的に書かれた謎がある。そのルーツは先秦時代の隠語と言われ ， 漢字の特性が介在することによって，一種の隠喩的話術から次第に文学的趣向を持つもの へと変化した。その中，特定作者の作品として，「離合詩」という文学形式が発生し，文学 じぶつめい 的な謎と，現象的な事物の名称を当てる 「事物謎」とを分ける分岐点となった。「謎」と いう漢字は，その両方を包括的に表す概念として，魏晋南北朝に創られたが，そのほかの とう 名称として，口承的な謎（主に事物謎）と区別できるように，その伝播のあり方を表す 「燈 めい ぶん こ （2） （3） （4） 謎」 や，その文学的性質を表す「詩禅」 や「文虎」 などが次々と発生していった。 これらの名称を簡単に表に整理すると，以下のようになる。 性質 事物を答えとする 漢字の特性を利用 時代 事物謎 した文学的な謎 先秦 隠語・讔 （いん）・廋辞 （そうじ） 前漢 射覆 後漢 離合詩 魏晋南北朝 謎・謎語 （めいご） 宋 燈謎 明 文虎 （燈虎）・詩禅 清 春燈 このように，時代につれ，文学的な謎の呼称が少しずつ特化されてきたことは明らかで ある。筆者はここで便宜上，漢字の特性を利用し文学的に書かれている謎のことを総じて ぶん ぎ めい 「文義謎」と称すこととする。文義謎がどのように言語遊戯から発生して文字遊戯として （5） 独自の形式を確立したかについては，拙論 の中で既に詳述したので，ここでは説明を割 愛するが，文義謎の発展の流れには簡単に触れておこう。 69 『アジア地域文化研究』No. 9 （2013. 3） 文義謎がどんな謎なのか，一つ簡単な例を挙げてイメージを提示するのは無論可能であ る。ただし，各時代の文義謎はその発展段階によって，形式も技巧にも何らかの変化が見 られる。最初の一例は以下の通りである。 二形一体，四支八頭，四八一八，飛泉仰流。（6） 答え：井 （南朝宋・鮑照） 解釈：「二形」とは，縦と横の二種類の形を指しており，それが一体になって「井」の 字を表す。「四支八頭」とは，「井」の字が持つ4 本の線と8 個の端を表している。