農産物直売所を通じた地域農業生産構造の再編.pdfVIP

日本農業研究所研究報告『農業研究』第23号（2010年）p.193～230 農産物直売所を通じた地域農業生産構造の再編 李　　　侖　美 目　　　次 1．農産物直売所の現状と本研究における課題の設定 　（1）農産物直売所の現状　　 　（2）本研究における課題の設定 2．JAさがみの直売所「わいわい市」の概要 　（1）JAさがみ管内の地域的特徴と「わいわい市」設立の経緯 　（2）「わいわい市」の概要 3．「わいわい市」における販売の特徴 　（1）売上高の激増 　（2）品揃えに関する二つの方針 　（3）売場面積1m2当たりの売上高が極めて大きい 　（4）地場農産物の割合がかなり高い 　（5）花卉・花木の売上割合が高い 　（6）多様な出荷者階層の増加 4．出荷者の全般的な特徴　―　出荷者アンケート調査から 　（1）出荷者の年齢 　（2）出荷者の性格 　（3）出荷者の経営耕地面積 　（4）出荷者の農産物年間売上高 　（5）出荷先と出荷割合 　（6）直売所への参加を契機とした様々な経営的変化 　（7）自由記入欄について 5．出荷者の個別調査にみる経営の特徴 　（1）出荷者の個別調査における7つの視点 　（2）品目別にみた出荷者の経営の特徴　 6．「わいわい市」の地域農業への影響 　（1）多様な担い手の活躍 　（2）地産地消の拡大と食料自給率向上への貢献 － 193 － 　（3）都市農業維持・発展への貢献　 　（4）農協の事業運営への影響　 1．農産物直売所の現状と本研究における課題の設定 （1）農産物直売所の現状　　 　「2010年世界農林業センサス結果の概要（暫定値）」2010年9月によると、農 産物直売所数は16,824であり、5年前に比べて3,286（24.3％）も増加している。 これはコンビニエンスストア最大手であるセブンイレブンの店舗数12,907店 （2010年8月末）をはるかに上回っており、農産物直売所がいかに全国に広く展 開しているかを示している（以下農産物直売所は、直売所と略記）。 　とくに運営主体についてみると、農協による直売所が確かな位置を占めてい ることが分かる。すなわち、運営主体の内訳をみると、農協2,314（13.8％）、 第3セクター463（2.8％）、地方公共団体213（1.3％）、その他13,834（82.2％） となっており、第3セクターや地方公共団体といった組織の設立数を大きく超 える数に達している。また、09年現在の農協数740からみると、1農協に約3つ の直売所が設立されていることになる。 　直売所の増加については、近年の食品に関する不祥事・事件の発生もあって、 消費者側からは食に対する安全・安心のニーズが高まっていること、生産者 側においては高齢化により共販体制の枠組には乗り切れない生産者や定年帰農 者、新規就農者、女性農業者などが比較的参加しやすいという点が考えられる。 　そこで、2008年3月に公表された農水省統計部の「平成19年農産物地産地消 等実態調査」結果に基づいて、直売所の現状に関するいくつかの指標を取り上 げて直売所をめぐる概況を検討しておきたい。1) 　まず、1産地直売所当たりの基本的な指標についてみておこう。売場面積 は236.2m2、従業員数8.3人、営業日数279.4日となっていて、2003年度の数字 185.5m2、7.2人、280.2日と比較すると、面積・従業員数とも増加しているこ とが分かる。また、年間販売額は2006年度に8,870万円で