「ヒト型ナノセラミド」を用いた、 燥を根本から改善.PDFVIP

特別賞 「ヒト型ナノセラミド」を用いた、 乾燥を根本から改善する化粧品 「アスタリフト　ジェリー　アクアリスタ」の開発 富士フイルム株式会社　医薬品・ヘルスケア研究所 田代朋子　中畝明菜　荒河純　中村善貞 1. 緒　言 1-1. 女性の肌と乾燥 肌( 皮膚) は体の最表面にある組織であり、外界と内面をつなぐ、重要な役割を果たして いる。肌は、体の水分を維持するだけでなく、外界の刺激から、体を保護しているバリア機 能を担っている。近年の研究によれば、この肌は骨格の様な単純な組織では無く、外界の環 境変化 ・刺激や体の状態によりアクティブに変化することが分かってきている。さらに、肌 の状態は心理状態とも密接に関係しており、心理状態が悪化すると肌状態が悪化するだけで なく、肌状態が悪くなることで心理状態が悪くなることも見出されている。 この肌の状態は、後述するように表皮細胞の増殖に始まり、ふけとなって剥離するに至る 「ターンオーバー」によって、恒常性が維持されている。しかしながら、温湿度変化、紫外線 や異物刺激などにより、炎症が発生し、肌のバリア機能が低下するとともに、ターンオー バーが異常となり、その状態が悪化する。また、年齢を重ねるとともに、肌の恒常性維持機 能が低下するだけでなく、紫外線に起因する光老化によりその劣化が加速することが知られ ている。 女性は、乾燥だけでなく、くすみ、シミ、しわといった様々な肌変化に、常に悩まされて いる。バリア機能の低下に直結した肌の乾燥は、シミやしわといった様々な肌トラブルの原 因にもなっている。バリア機能を回復 ・維持し乾燥から脱却することが、女性の肌悩みを改 善し、日々の生活におけるQOL 向上に重要な役割となっている。そのため、肌を乾燥から 守ること、保湿がスキンケアの基本機能となっているのである。 1-2. 乾燥と従来の保湿剤 保湿が重要であり、スキンケアの基本であることは、古くから十分に認識されていた。そ のため従来より、様々な保湿剤が開発されており、化粧品に用いられてきた。しかし、今ま での保湿剤の多くは、グリセリンなどの多価アルコールやヒアルロン酸等の水溶性高分子で あり、それ自身が水分を保持する「一次保湿剤」と呼ばれるものである。肌に適用した保湿剤 が水分を保持することにより乾燥しにくくはなるが、恒常的に自分自身の肌を乾燥から改善 させることは困難であった。 近年、皮膚化学の進歩とともに肌の恒常性維持メカニズムが詳細に解明されてきている。 そこで、肌の元々もっていた機能のうち加齢により機能低下する部分を補うことで肌乾燥か ら脱却するアプローチの保湿剤（2 次保湿剤）の開発が進んでいる。しかし、肌のメカニズム は複雑であり、根本から肌を改善させるまでには至っていない。 そこで私たちは、従来の保湿剤、従来のスキンケアでは達成できなかった、乾燥の根本を 絶つことを目指し、新たな肌バリア機能回復の技術開発に着手したのである。 2. 肌の構造と乾燥のメカニズム 2-1. 肌の構造 肌は、その表面から表皮層、真皮層、皮下組織の構成になっており、表皮は主にケラチノ サイト( 表皮細胞) からなる。基底層で細胞分裂し新たに誕生したケラチノサイトは、徐々 −2 − に分化誘導を受け形状と機能とを変化させ、 後からできてきたケラチノサイトに押し上 げられるようにして、表面へ移動していく。 分化の最終段階として脱核した状態を角質 細胞と呼び、角質細胞に分化する際、細胞 周囲に脂質などを放出し、細胞間脂質を形 成する。この角質細胞とその間を埋める細 胞間脂質からなる層が角層である（図１）。 ケラチノサイトが基底層から押し上げら れ脱核するまでに約2 週間、更に角層が剥 がれ落ちるまでに約2 週間かかる。肌は外 界に接する過酷な条件下にあるため、常に 更新されている。しかし、その恒常性は、 図1. 肌の模式図 ストレスや外界の影響、そして加齢ととも に機能低下し、肌状態が悪化するのである。 最外層の角層の厚みは僅か20 μｍ程度であり、前述の通り、脱核した死んだ細胞の塊で ある。この極薄い膜である角層が人間の体を乾燥 ・水分蒸