大気科学讲座 1.PDFVIP

大気浮遊塵の化学 171 St・Helens火山を起点として，16日目に火山噴出物を含 つつあるが，それがどのような形で含まれているかに関 む空気が日本上空を通過したことを示しており，その平 しては，まだ研究が少ない．有機物質についても，何が ● 均流速は15m／secとなる（第12図）． どの程度入っているかということになると，まったく雲 　さきにBoutronが南極氷床コア中の亜鉛等の高濃度をつかむような話である．今後さらに詳細な研究が必要 の原因として火山活動の可能性を指摘しているが，今回 であろう． の広瀬ら（1981）による研究結果は，火山活動による金 　人間活動が，多種多様の物質を大気浮遊塵として放出 属元素の大気への負荷が，地球上での物質分布に大きく している事は事実である．しかし，それが全地球的規模 関係している点を明らかにしたものである． で大気の様相を変えているのかどうかについては，確実 なことを云うためにわれわれのもっている知識はまだ少 今後の問題 なすぎるようである． 大気浮遊塵の化学成分については徐々に明らかにされ ● 竹内清秀・近藤純正　著 う強めている． 本だ 地表に近い大気 　この本が生まれてきた背景には，このような事情があ 　　　窓 大気科学講座1 ると思われるし，著者もこうした時代の要請に応えよう 　　　竃謹 と意図していることがうかがわれる．第一章から四章ま 東京大学出版会，1981年7月刊， でが基礎部分で，五章から八章までが応用部分となって A5判，226頁，3200円 いるが，特に前半の基礎部分および付録（参考文献の項 　大気境界層の力学は，いうまでもなく気象学の一分野 も含めて）にこの本の特徴がみられ，大気境界層に関す であるが，他の分野に比べて，従来あまり重視されてい る各理論が平明に，かつ体系を整えて記述されている． たとは言い難かった．たとえば，これまでの気象力学の この点はこれまでのこの分野の著書にはみられなかった 教科書では，ほとんど乱流の一部分として取り扱われて ものである．また後半の四章も，応用部分とはいって いたにすぎなかったし，また数値予報のモデルにおいて も，いわば応用部分の基礎理論ともいうべきもので，こ も第一近似として無視されていた．したがって，正直い れらの点からみると，この本はあきらかに大気境界層に ● って，この分野に関心を持つ特定の人をのぞくほとんど 関する教科書として著わされている．特に，大学で気象 の人々にとってはあまりなじみがなかった．しかし最近 学，建築学，農学あるいは環境学などを志している専門 では，少なくとも気象学に関心を持つ人であれば，いや 課程の学生諸君には恰好の教科書となるであろうし，そ おうなく，この分野に注目せざるを得なくなってきた． ろそろ頭に酸化金属などが付着しようとして