庭石と地质-岛根県技术士会.PDF

庭石と地質 庭園文化研究分科会 片山 直樹 １．はじめに 庭園文化研究分科会は、県内各地の日本庭園を訪ね、島根における庭園の魅力や作庭技術な どに触れるとともに、地域資源としての活用や保全について考えていくことを大きな目的とし、 今年度より活動を開始した。活動初年度である今年度においては、県東部に多くみられる「出 雲流庭園」を６箇所見学し、出雲流庭園についての特徴などについて考察を行うことが主とい える。 さて、私にとって日本庭園は、以前から「何となく落ち着く、気が休まる」場所として気に 入っており、寺院などの観光の際には庭を拝観させてもらっていた。ただ、庭の見方、いわゆ る「見立て」については全くの無知であり、最近ではより深く庭を知るためにも勉強せねばと 考えていたところ、本研究分科会の存在を知り、参加させていただいた次第である。 以下では、本研究分科会に参加し、私なりに日本庭園について学んだことを整理するととも に、庭の骨格を成すといっても過言ではない「庭石」について、その見立て方や、地質的な切 り口からの考察を述べる。 ２．日本庭園の形態 日本庭園は、歴史的に見て、一貫して石・水・植物などの自然の素材を用いて、大地の上に 自然の風景を創出したものが多い。そして、時代の移り変わりによって、そのトレンドも大き く異なってきている。 一般的な日本庭園の形態としては、「池泉庭園」、「枯山水」、「露地（茶庭）」の３つに大別さ れる。池泉庭園や枯山水では、池や枯池を大海と見立て、そこに浮かぶ島々をつくり、築石や 石組で丘陵や山、急峻な山岳を表現した。これらはいずれも、大自然の美しい景観を縮めて表 わそうとしている。 これに対して露地は、樹木や、コケなどの地被類を多用して、身近にある山間の風情を表現 している。同時に建物も質素な外観にすることで、山居の佇まいを表わした。 このように、自然を尊重する点は同じでも、景色の捉え方にはそれぞれ違いがある。この幅 広い表現によって、三つの形態が今日まで併存してきたといえる。以下に、これら３つの形態 の庭園について、概要を述べる。 （１）池泉庭園 貴族や大名などが邸宅内に好んで設けた優美な庭園。広大な土地に池や山を築き、時には舟 を浮かべて楽しんだ。時代によって作庭様式が異なり、寝殿造庭園 （平安中期）、浄土式庭園 （平 安末期）、書院造庭園（鎌倉･室町）などに細別される。 （２）枯山水 日本に禅の思想が根付くとともに発達した庭園。あえて厳しい自然をモチーフとし、水を使 わず砂や石で滝や急流などを表現する。水を使わずして水を感じることは悟りの世界観でもあ るといえる。 -79- （３）露地 茶人の発案による庭園で、茶事のもてなしの一つとして、庭の設えや意匠を楽しむ。市中の 山居とするために、従来の建物や庭園とは異なる質素で侘びた風情を持たせた。 ３．庭石の見立て 昔は石を立てる（据える）ことが、すなわち庭をつくることを意味した。つまり、「石を立て る」ことは庭造りの基本といえ、庭石は庭の骨格を成すといえる。 しんせんほうらい 様々な石を組合わせて、鶴や亀などに見立て、神仙蓬莱の世界観を創出することもあった。 また、石橋は単なる風景としてではなく、理想の世界に渡る思想を込めた形で架けられること もあった。 想いや願いを、様々な形で配置し、風景に違和感無く溶け込ませることこそ、庭石の表現で ある。何を表現しているのかが一目瞭然のものもあれば、抽象的で判別困難なものもあり、そ こが庭を奥深いものとしている。 今回視察した鰐淵寺庭園では、住職から「庭の見立ては人それぞれであっていい。むしろ固 定的なものでない方がいい」との旨のお話を頂いたが、その話を聞いて、庭の知識が少ない私 個人としては少し気が楽になった。 ただ、作庭者の庭に込めた想いを推し量り、より深く庭を楽しむためには、やはりある程度 の基礎知識は必要と思われる。しかし、その一般的な知識を庭に押し付けるのではなく、それ ぞれの庭や、また、季節の変遷から感じられる趣の違いなどから、庭の見立ては自ずと違うも の