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２０１１年１月提出 東北学院大学教養学部地域構想学科　２０１０年度総合研究 祭りの分裂と統合に共通する地域ごとの結束 ―岩手県遠野市における伝統的祭りの分裂の事例から― 教養学部　地域構想学科　4年生 ０７５８２６５　三浦　希美 指導教員　金菱　清 要旨 　現代において、伝統を後世に伝えるということは、時に至難である。時代の流れと共に人々の生活は変化し、人々の多くが農業に就いていた時代は情報化社会の一端に追いやられた。平成4年に国家公務員に対し週休二日制が導入されて以来、我が国の労働形態が天候や季節の変化に振り回されることは激減した。農業が主体であった時代に生まれた文化や伝統は、それ故に、現代において当初の形を保ちにくくなっている。 岩手県遠野市の伝統的な祭りである遠野まつりも、その例の一つである。ハッピーマンデー政策により祝日法が改正され、毎年遠野まつりをおこなっていた敬老の日が平日になったため、仕事や学校を休むことが出来ない多くの市民が参加出来ないという事態が起こったのである。遠野まつりとは、元々遠野卿八幡宮の例大祭と、市民主体の郷土芸能祭が統合されて出来た祭りであったため、祭りの開催日にあたり八幡宮側と市民側で意見の相違が生じた。八幡宮側の、神事であるが故に決められた日程の変更は出来ないという言い分と、市民側の、参加者や観光客が集まらなければ祭りとして成功ではないという言い分が平行線を辿り、ついに遠野の伝統的祭りは遠野まつりと八幡宮例大祭に分裂した。 双方の言い分を調査する過程で多くの遠野の郷土芸能団体と接触することが出来、その聴き取りの中で、遠野の人々が持つ強い地区意識が露呈した。遠野市における9つの地区にはそれぞれ複数の郷土芸能団体が存在しており、廃れたものもあるがその多くが現在も活発に活動している。遠野の伝統的な祭りにおいては、「遠野の郷土芸能」としてそれぞれが参加しているが、実際は他地区との差別化や優劣に対し非常に敏感である。久保田裕道は、遠野の人々は郷土芸能に加わることによってその地区、さらには遠野全体への帰属意識を強めていると述べている（久保田, 1996）。しかし、現在遠野の郷土芸能を一つにまとめるという動きが出ているにも関わらず、自身の地区の踊りが一番であるという主張が絶えないことから、各郷土芸能団体間に抗争が生じている。以上のことから、遠野の人々は郷土芸能を伝承するという点において、地区ごとのまとまりを非常に大切していると考えられる。遠野の人々にとって伝統的な祭りは「地区ごとの祭り」であり、自身の地区が参加するということが大前提として重要なのである。よって、久保田（1996）が論じた帰属意識よりも、さらに細分化された「地区への帰属意識」が今回の伝統的な祭りの分裂の主要な要因なのである。 目次 はじめに―問題の所在 第一章　遠野まつりについて 　　　　　1-1.遠野市概要 　　　　　1-2-1.遠野まつり概要 1-2-2.遠野卿八幡宮 　　　　　1-2-3.遠野南部流流鏑馬と流鏑馬保存会 　　　　　1-2-4.遠野まつり実行委員会 第二章　現代における伝統的な祭りの変容 　　　　　2-1. 「よさこい」の祭り―宮城県仙台市の事例― 　　　　　2-2.江陵端午歳―大韓民国江原道江陵市の事例― 第三章　現?遠野まつりの「分裂」―イベントと神事 　　　　　3-1.昭和48年～平成15年までの旧?遠野まつり 　　　　　3-2.平成16年～平成20年までの旧?遠野まつり 　　　　　3-3.遠野卿八幡宮例大祭 　　　　　3-4.分裂に対する双方の言い分とその背景 第四章　現?遠野まつりの誕生 　　　　　4-1.現?遠野まつり 　　　　　4-2.統合に対する双方の言い分 第五章　「分裂」と「統合」で通底しているもの 　　　　　5-1.言い分の矛盾 5-2.一つの祭りではない「現?遠野まつり」 　　　　　5-3.郷土芸能における地区単位 　　　　　5-4.「分裂」と「統合」の正統性を支えるもの 第六章　結語 謝辞 参考文献 　 はじめに―問題の所在 岩手県遠野市は、観光業での集客や賑わいを多くの市民が望んでいる街である。その理由として、過疎化が進んでいるという現状がある。同市内では雇用の場が少ないことから、若年層を中心に近隣市への移住が多い。人口に対する若年者比率で見ると、昭和55年が17.6％であったのに対し、平成12年が13.3％と大きく減少していることからも読み取れる（平成21年3月岩手県遠野市都市再生整備計画書）。観光資源として有名なものには、柳田國男の『遠野物語』や口承文学としての民話、その語り部が挙げられる。しかし、市内に温泉が無くそれに付随して