基础皮肤科学.PDFVIP

247 書 評 基礎皮膚科学 　　東北大教授　清寺　真 　　群馬大教授　黒住　一昌　編集 　　和歌山医大教授　三島　　豊 Ｂ５判　732頁　９ポイント活字．写真版327 定価　24,000円　　発行所　朝　倉　書　店 　記載皮膚科学―見る皮膚科学と云っても先輩がその時 学，生物学，病理学，生化学の各項を飛び読みしても， の知識を傾け「考えた皮膚科学」であったわけで，19世 最近の研究成果が盛り込まれて，初めて知る喜びが随所 紀独襖の学者の観察には今日われらに発症病理の機微を に見られる．例えばタラノサイトに就て現今アノ･リカ・ 示唆する知見に屡々遭遇する．古い観念かも知れないが 日本学派の先頭を切うている各執筆者の論説が枢軸を占 帰納・演釈の積み重ねに学問の興味があるのではあるま め，或は色素性乾皮症に対する生化学的観照，さてはラ いか，しかし当時の研究手段の幼稚さでは真相究明はな ングルハンス細胞の起原問題にまで及び，誠に標ゆい所 かなか及びもつかぬことが多かった．然るに当今優れた まで手の届いた感が強い，更にそれぞれの専門家による 研究方法が輩出し，且つ学者間の交流も頻繁になり比較 変温脊椎動物，恒温動物に於ける比較生物学など，体色 的容易に斬新な検査法を導入し得る幸運な時勢となり， 変転と内分泌との関係に及び興味が尽きない． 研究室を離れた私などにとっては誠に羨ましい次第であ 　ただ強いて我座を云えば篇，章の区切に殆んど余白を る． 置かない点が目を疲れさせるように感ぜられるが，頁数 　たまたま清寺・黒住・三島３教授の編集になる“基礎 を節約する企図から無理な注文かも知れない．現に近来 皮膚科学”が出版されて現今研究の尖端を披露され，汎 の良書として知られるFitzpatrick監修のDermatology く皮膚病研索に応用し得る門扉を開いて呉れた感を覚え in general medicine (1971年）の編集にも同様の傾向が る．老来読書力も衰え，且つ日新の文献を手近に持って 見られ，本をなるべく厚く～高価にしたくないと云う配 いない私にとって新知見の供給源となりそうな好著であ 慮によるものとすればまた己むを得ないことでもあろ る，新進40名の執筆者の熱意が700頁に氾濫して圧倒さ う．序でながらあのFitzpatrick著とこの“基礎皮膚科 れる．特に皮膚科以外の専門家（1ﾑを超える）が執筆さ 学”とを机上にならべて置けば当分の聞は余り今日の学 れて居る領域では私にとって耳新しい知見で最近の検査 問に遅れないような朧げな安心感が私に起る･ 術式を駆使し腕によりをかけた競演が目につき，中には 　また意地悪に巻尾の索引を紅って，今日の皮膚科学と 多少親切過ぎるのではないかと思われるほどである. して遺漏がないかと探索して見たら, DNA, RNAの生 　殊に現今研究方法の花形とも云うべき電子顕微鏡によ 化学が總説されておるのに，遺伝学の近業を殆んど採り る検査成績は鮮明な挿図が満載され，採って皮膚病臨床 上げていないのが私にとってはいささか寂しく感ぜられ 例の解説に適用