高校数学における有用性と活用に関する考察.PDFVIP

上越数学教育研究, 第 23 号, 上越教育大学数学教室, 2008 年, pp.117-126. 高校数学における有用性と活用に関する考察 濱谷 伸広 上越教育大学大学院修士課程１年 １．はじめに 率が 72.8％であり，基礎的・基本的な知識・ 筆者は，高校教員として 10 年近く数学の授 技能を更に身に付けさせる必要がある」「数学 業を行ってきた。特に，筆者の勤務してきた Ｂ（活用）について，生徒の平均正答率が 学校は，教育困難校と呼ばれるような普通高 61.2％であり，知識・技能を活用する力に課 校，または，教育困難校と同様の生徒がいる 題がある」という報告がある。 地方の定時制高校である。教育困難校という この活用の問題とは，生徒が「数学って何 言葉は，80 年代に高校教育を中心に登場した の役に立つの？」という質問に直結するよう もので，古賀(2001)は，困難校とは，いわゆ な問題である。全国学力・学習状況調査の中 る問題行動が頻出する学校で，教育活動も困 学数学の結果報告からは，活用ということが 難であるためそのように名づけられたと述べ 知識に比べ低い。このことは高校においても ている。また，古賀(2001)は，困難校では， なおさらで，生徒が高校数学が社会生活の中 生徒が学習に十分取り組めない状態が起こっ で役に立っている，つまり，有用と認識し難 ているとも述べている。さらに，梅田(2001) い状況にある。 は，近年，困難校には，不登校生徒や特別支 生徒が有用と認識し難い原因として，筆者 援を必要とする生徒が増加していると述べて の実感から，中学や高校において数学の有用 いる。 性を認識できるような指導が行われていなか 筆者が上記のような高校で，授業を行った ったり，その様な教材が扱われていないこと 際に，業間や放課後での談話において，生徒 がある。 から「数学って何の役に立つの？」とか「足 本研究の目的は，数学は有用なものである し算，引き算ができれば生活には困らない」 と生徒が認識するような教材を研究し，学習 ということをよく言われた。確かに，大学や 活動を設計するための示唆を得ることである。 その他の上級学校への進学に数学を必要とし ない生徒にとっての高校数学は，将来の生活 ２．有用性に関する先行研究 において実際的に役立つものとは筆者自身も 2.1. 明治以降の数学教育における有用性 思わない。もしかすると，高校以前の中学数 2.1.1. ジョン・ペリーについて 学においても，生活で多く活用することがな 数学というものは，昔から数を数えること， いかもしれない。 農耕，測量といったことで有用なものであっ 2007 年に文部科学省が実施した全国学 た。しかし，ユークリッドの原論以降，ヨー 力・学習状況調査の中学数学の結果報告では， ロッパ数学のもとでは，とりわけ中等教育以 「数学Ａ（知識）について，生徒の平均正答