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哲学分野の展望―共に生きる価値を照らす哲学へー
日本の展望―学術からの提言2010
報告
哲学分野の展望
―共に生きる価値を照らす哲学へー
平成22年(2010年)4月5日
日 本 学 術 会 議
哲学委員会
哲学の展望分科会
この報告は、日本学術会議 哲学委員会および哲学の展望分科会の審議結果を取りまとめ
公表するものである。
日本学術会議 哲学委員会
委員長 野家 啓一 (第一部会員) 東北大学理事?附属図書館長?大学院文学研究科教授
副委員長 丸井 浩 (第一部会員) 東京大学大学院人文社会系研究科教授
幹 事 島薗 進 (第一部会員) 東京大学大学院人文社会系研究科教授
前田富士男 (第一部会員) 慶應義塾大学名誉教授
大庭 健 (連携会員) 専修大学文学部教授
神崎 繁 (連携会員) 専修大学文学部教授
清水 哲郎 (連携会員) 東京大学大学院人文社会系研究科教授
竹内 整一 (連携会員) 東京大学大学院人文社会系研究科?文学部教授
西村 清和 (連携会員) 東京大学大学院人文社会系研究科教授
宮家 準 (連携会員) 慶應義塾大学名誉教授
哲学の展望分科会
委員長 前田富士男 (第一部会員) 慶應義塾大学名誉教授
副委員長 大庭 健 (連携会員) 専修大学文学部教授
島薗 進 (第一部会員) 東京大学大学院人文社会系研究科教授
丸井 浩 (第一部会員) 東京大学大学院人文社会系研究科教授
神崎 繁 (連携会員) 専修大学文学部教授
清水 哲郎 (連携会員) 東京大学大学院人文社会系研究科教授
鈴木 廣之 (連携会員) 東京学芸大学教授
山中 弘 (連携会員) 筑波大学大学院人文社会科学研究科教授
※ 名簿の役職等は平成22年3月現在
i
要 旨
1 作成の背景
日本学術会議の「日本の展望─学術からの提言2010」は、日本の学術が日本社会にどの
ように貢献しうるのかを中期的に展望し、提言を行うプロジェクトである。その実行に際
し、日本学術会議哲学委員会は、人間の歴史上、ながく学術活動および文化的創造におい
て中核的かつ基礎的な役割を果たしてきた「哲学?思想文化領域」の観点から、現代の日
本社会の人文知?人文学の状況に照明をあて、「尊厳ある主体」としての人間を見つめる立
場にもとづいて、より豊かな未来にむけて課題の所在を明らかにし、その解決のための提
言を行った。哲学委員会が活動対象とする哲学?思想文化領域とは、西洋哲学、倫理学、
インド哲学仏教学、中国思想、日本思想、宗教学、美学芸術学、芸術文化研究(美術館活
動ほかに関する実践研究を含む)などである。本報告は、こうした諸領域の現状に即して
哲学委員会の行った提言の内容を、あらためて全体的な展望のもとに提示するものである。
2 現状及び問題点
現代の日本社会は、情報技術やグローバル化の進展のもとで大きな恩恵に浴する一方で、
ともすれば個人が人間としての主体的自由や尊厳を見失い、人間と自然の織りなす生活基
盤を忘失し、社会の歴史や伝統に根ざす生活世界から漂いでる現象に直面している。近代
性の基盤を検証したニーチェをひくまでもなく、これは近代社会の人間が歩まざるをえな
い方位とも言えよう。とはいえ、生きるための指標となる価値を確かめえず、人間の絆に
も触れえない「心の空洞化」とも呼びうる現象の拡大は、著しい。
こうした大きな時代転換のなかにある社会で、人間存在のあり方を根本から問い直す人
文学の役割はきわめて大きい。とくに哲学?思想文化系の研究は、最も基礎的かつ本質的
な観点から、現代社会が直面している課題に取り組まざるをえない。すなわち、まず求め
られるのは個人の基礎的な能力の涵養であり、具体的には批判精神にもとづく思索力、差
異や異質性をこえて理解と共感をひろげる想像力や感性の力、そして他者とコミュニケー
ションを形成する対話力である。こうした能力は、たんに学術上の要請にとどまらず、実
は「学術と生活世界を媒介する」力にほかならない。つまり、その力は高度専門化社会や
少子高齢化社会ゆえに生じる「心の空洞化」の克服や、科学技術がときにもたらす対社会
的リスクを抑制しうる働きにも展開しうるのである。とくにグローバル化社会では、異文
化、異なるものとの対話と共生を導くための「聴き続ける力」の形成が求められる。
ii
iii
3 提言の内容
(1) 研究者養成システムの再構築
人文?社会科学分野での若手研究者の育成は、科学技術系の大型プロジェクトを優先
する状況下で、規模の縮小を余儀な
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