高度化が待たれる地方銀行のストレステスト要点.pdfVIP

04 B a n k i n g 　バンキング 高度化が待たれる 地方銀行のストレステスト ストレステストは、近年浸透が進むリスク管理手法の1つであるが、野村総合研究所が中堅行中心に地方 銀行に対し行ったヒアリングでは、テストを実施する現場ならではの課題が浮かび上がった。今後の高度 化にむけては、特に現場のリーダーシップに期待したい。 　英国のEU離脱、トランプ大統領の誕生など2016年 多いが、実際に株価がどれくらい下がるか、金利がどれ は、リスク・シナリオが現実となった1年であった。秋 くらい上がるかといった、変化の「幅」については、あ 以降の米国金利の上昇は、地方銀行においても相応のイ くまで定性的な見立てに留まるとのことであった。海外 ンパクトを与えたと推察される。 大手行やメガバンクなどでは、影響度合いについてモデ 　ストレステストは、VaRなど定量的な手法を補完す ルによる予測・計測も進んでいると聞くが、人員に限り るものとして、近年浸透が進むリスク管理手法の1つで のある地方銀行では、どうしても担当者の属人的な判断 ある。しかし、いざ実施するとなると、現場では様々な にならざるを得ない模様である。 課題が出てくるようだ。本稿では、中堅行中心に地方銀 　3つめは、カテゴリーを跨いだ統合性・整合性の確保 行に対し行ったヒアリングから、その課題を整理する1） である。リスク・イベントが発生した場合、その影響 。 は、市場や経済だけでなく、取引先企業を含むカウン ストレステスト実施における ター・パーティの信用力や業績にも波及する。しかし、 3つの課題 ヒアリングの限りにおいては、金利・株価の変動が地元 　ストレステストとは、市場で不測の事態が生じた場合 取引先の業績や財務に与える影響まで精緻に紐付けて分 にどの程度の損失が生じるのか、事前にシミュレートす 析する銀行はあまり多くない模様である。つい最近まで る管理手法である。実施に際しての出発点は、不測の事 市場リスクのチームと信用リスクのチームで異なる見通 態、すなわちリスク・イベントの洗い出しとなる。しか しを立てていたという銀行もあった。先の金融危機で し、ヒアリングでは、納得感あるイベントの抽出がまず は、市場と信用双方の相関が一気に高まり、保有ポジ 難しいとの指摘があった。「リスク・イベント」という ションの損失が急速に拡大した。リスク管理チームは、 だけあって、発生可能性が低いと思われる事象を洗い出 リスク・カテゴリーに応じて編成されるのが一般的であ す必要があるが、可能性が低いと思われるがゆえに社内 るが、チームを跨いでシームレスなテストを行うことは でコンセンサスを醸成するのが難しいとのことである。 決して容易なことではないように感じられた。 ストレステストの目的の1つは、想定外の事態を想定の 範囲内とすることにあるが、イベントやシナリオの蓋然 最も難しい経営意思決定への反映 性（起こりやすさ）・客観性を行内議論で共有する