出土资料と章太炎‘古音娘日二纽归泥说’.PDF

古代文字資料館発行『KOTONOHA』第 50 号(2007 年 1 月) 出土資料と章太炎「古音娘日二紐帰泥説」 野原将揮 1. 章太炎『国故論衡』「古音娘日紐帰泥説」に「古音有舌頭泥紐、其後支別、則舌上有娘 紐、半舌半歯有日紐。于古皆泥紐也。」とある。これは娘母と日母が古音では泥母であっ たことを意味しており、『広雅』『釋名』等を引いて異文、声訓から古音声母の来源を求 めているのが特徴である。現在では諧声系列研究が進み娘母、日母が泥母に帰すことは ひとつの通説となっている。では、ここで指す古音とは一体何を指すのだろうか。注意 すべきは章太炎が声訓を用いて考察していることである。『中国語学新辞典』によると声 訓とは「ある漢字の字義をそれと同音または双声重韻などの近似音の文字で解釈する方 法。･･････戦国末から前漢にかけて陰陽五行説を奉じた思想集団に意図的に利用さ れ･･････」とある。実際、「国故論衡」においても漢代の『淮南子』『釋名』等が引かれ ている。つまり章太炎は遡ったとしても戦国末から後漢までの音を求めた事になる。以 上のことは、近年注目を浴びている出土資料でも確認することが出来る。 2. 1993 年に湖北省荊門市から出土した郭店楚簡、その翌年に香港の骨董市で発見された 後に上海博物館に蔵される事となる簡牘が歴史・思想研究にかなりの影響を与えたこと は言うまでもないことである(以下、上博楚簡と略称)。出土地に関して、上博楚簡も郭店 出土の可能性があると考えられているが現時点では出土地、出土期については確証がな い。その郭店楚簡と上博楚簡にはともに対応する内容として「性自命出」(郭店楚簡)、「性 情論」(上博楚簡)があり、また両者ともに「緇衣」が含まれていることが確認されている。 『上海博物館蔵戦国楚竹書(一)』には郭店楚簡「緇衣」と上博楚簡「緇衣」が並べて掲載 されているため比較対照の際には非常に便利である。小稿ではこの「緇衣」を中心に「女」 に関連する特に典型的な例を挙げることとする。 郭店楚簡、上博楚簡「緇衣」には幾つかの「女」が現れる。郭店楚簡には計 7 字(声符 「女」も一字として数に含み、その他6 字は「女」一字で表記されている)、上博楚簡に は計 6 字の「女」が見られる。上博楚簡は缼簡している部分があるため郭店楚簡よりも 1 字少ない。これら「女」はどれもが「如」の通假字であり、現在のところ「女」が「如」 の通假字として表記されることについては何の問題も無く、極々自然なことと考えられ ている。 『説文』には次のようにある、 「女」･･････「婦人也。象形王育説凡女之属皆从女。」 - 9 - 「如」･･････「从随也。从女从口。」 「如」は『説文』では会意字と看做されている。 しかし、果たして『説文』で言うように会意字だろうか。やはり「女」は声符と考えて 差し支えないように思う。また、中古音に投影してみると「女」は娘母で「如」は日母 であるから混乱を招くが、楚簡でも通假されていることからも「女」と「如」は同じ音、 もしくはかなり近い音だったに違いない。上古ではどちらも魚部に属し、中古音韻地位 は「女」が娘母遇摂魚韻三開上で、「如」は日母遇摂魚韻三開平である。ちなみに「奴」 と「如」が通用している例も楚簡に見られる。それは『上博楚簡(四)』「逸詩」に現れる。 「奴」は泥母遇摂模韻一開平で、『説文』では「奴婢皆古之辠人也。周禮曰其奴男子入于 辠隷。女子入于舂藁。从女从又。」とあり会意字とされる。これでより一層、日母、娘母、 泥母がその源を同一とすることが確実になるだろう。以下、それぞれの音価を挙げる。 Baxter 董同龢 李方桂 鄭張尚芳 上古/中古 「女」 nrja nia nrjax na 魚部/娘母遇摂魚韻三開上 「如」 nja nia nja nja 魚部/日母遇摂魚韻三開平 「奴」 na na na naa 魚部/泥母遇摂模韻一開平 3. 上挙した例以外に、郭